要介護2以下の訪問・通所を総合事業へ移す案、関係団体らが猛反発

26日に開催された社会保障審議会・介護保険部会。介護現場の関係者から、要介護1、2の高齢者に対する訪問介護と通所介護を市町村の総合事業へ移す案について、

「先人たちの努力を踏みにじる改革」「粗雑な審議はやめて欲しい」こうした厳しい批判が相次ぎました。

 

次の2024年度の制度改正に向けた議論を進めている厚生労働省はこの日、膨らみ続ける介護費を支えていく“負担のあり方”を俎上に載せました。「制度の持続可能性を担保するため、財務省などがこの案の実現を要求していることを改めて説明。実際に具体化を図るべきかどうか、有識者で構成する委員に考えを聞き、大枠の方針は年内に固めていくそうです。

 

前向きな立場を表明したのは、保険料を負担する現役世代や企業などの立場を代表する委員です。今後の介護費の伸びを抑制していく観点から、「重度者への支援に給付を重点化していくべき」「軽度者へのサービスをより効率的な形に変えるべき」といった声があがりました。財務省がこれまで繰り返してきた主張に沿ったものです。

 

総合事業の特徴は自由度の高さ。全国一律のルールに基づく介護給付と異なり、運営する市町村が地域の実情に応じてサービスの運営基準、報酬などを独自に決められます。

例えば、地域の住民やボランティアを担い手とするなど人員配置を緩和したうえで、それに合わせて低めの報酬を設定することも可能なのです。現在は要支援者の訪問介護、通所介護などが総合事業で運営されています。もっとも、見返りが少ないこともあってこうした住民主体の弾力的なサービスは十分に普及はしていません。

 

この総合事業に要介護1、2の訪問介護と通所介護も含める案をめぐり、この日の会合では介護現場の反発の強さが改めて浮き彫りになりました。

小泉立志委員(全国老人福祉施設協議会副会長)は、「要介護1、2の高齢者に専門性の乏しいケアで対応することになり、自立支援のケアを劣化させる」「地域の実情に合わせた多様な人材・資源を活用したサービスを提供できる、という見通しは実態を無視した空論であり、現実的ではない」などと問題を提起。「総合事業へ移行すれば、在宅ケアの質・量を確実に低下させ、長年築いてきた在宅ケアは著しく後退してしまう。過去の積み上げを破壊し、先人たちの努力を踏みにじる改革であり、断固として反対」と語気を強めました。

また花俣ふみ代委員(認知症の人と家族の会常任理事)は、「要介護1、2の人に“軽度者”とレッテルをはればサービスを減らせるかのような、非常に粗雑な審議は絶対に避けて欲しい」と要請。「介護保険料を支払い、サービスが必要と認定されても在宅で暮らすことができない人をこれ以上増やさないで欲しい。過重な介護負担に起因する高齢者虐待、介護心中、介護殺人などの悲劇をこれ以上増やさないで欲しい」と訴えました。

 

総合事業の特徴の自由度の高さから、市町村の裁量によって報酬単価やルール緩和が行われ、報酬が2割から3割削減されるケースがあります。更に厳しい削減幅の自治体も存在します。この状況が、要介護1と2にも及べば、訪問介護及びデイサービスの利用者の多数は要介護1と2の方で占められているため、間違いなく大半の事業者は事業継続が困難な状況となり、数多くの介護難民が生じ、地域包括ケアモデルの崩壊へと繋がることとなります。

 

仮に要介護1と2の方の総合事業への移管を検討するのであれば、市区町村に全面的枠組みを委ねるのではなく、国が一定の人員基準や設備基準等の要件緩和の方向性を示し、単なる報酬削減だけではなく、事業者のコスト削減も同時に実現し、利益確保の道を示すことが必須であると考えます。

その際に重要なことは、利用者のサービス品質低下につながらないこと。そしてもう1つは、総合事業の枠組みだけでの制度設計ではなく、介護保険制度との一体運用に基づく要件緩和の検討が必要であると考えます。

 

この問題は、過去の介護報酬改定においても慎重な議論が繰り返され、実現には至りませんでした。

しかし業界関係者は、今後の議論の動向を注視していかなければなりませんね。